先日、何気なく巨大数について調べてたら、すごく面白かった。
最初は「数なんて無限に続くんだから設定次第でいくらでも大きくできるでしょ」って思ってたけど、想像していた以上のとんでもない世界だった。
色々な巨大数
人はどこまで大きな数を想像できるのだろう。
まず思い浮かぶのは「無量大数」ではないだろうか。
一、十、百、千、万、億、兆、京、垓・・・と、数の単位を無量大数まで暗記した人も多いと思う。
無量大数は10^68と表記できる。
つまり1の後に0が68個続く数だ。
世界中の砂浜の砂粒の数が10^23個程度だと言われているので、それよりも大きな数になる。
ちなみに宇宙の全ての原子の数が10^80個程度だと言われており、これは無量大数よりもはるかに大きな数になる。
ではもっと大きな数では何があるだろうか?
仏教の経典には不可説不可説転という数が乗っているらしい。
1不可説不可説転=10^37218383881977644441306597687849648128
だそうだ。
これは大体、無量大数の5400溝乗に相当する。
さらに大きい数に、グーゴルプレックスというのがある。
グーゴルプレックス = 10^10^100
=10^100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
このように、べき乗を重ねることで、とんでもなく大きな数字を表記することができるようになる。
いかにして巨大な数にたどり着くか
大きな数を導くには様々な手段がある。
もっとも身近なのは足し算や掛け算だろう。
3 + 3 + 3 + 3
3 x 3 x 3 x3
このように演算を繰り返すことで、より大きな数へとたどり着くことができる。
当然、足し算より掛け算のほうが巨大数を作り出す能力が高い。
そして掛け算より、上で書いたべき乗のほうがさらに能力が高い。
おそらく一般的に知られている表記方法で一番強力なのはこのべき乗だろう。
3^3
とか
3^3^3
とか
3^3^3^3
とか
ちなみにべき乗は矢印を使って表すこともできる。
例えば3^3は
3↑3とも表記できる。
3↑3↑3↑3
を計算してみよう。
3↑3↑3↑3
=3↑3↑27
=3↑7625597484987
=????
3を7兆回以上掛け合わせた数。
もはやケタ数が大きくなりすぎて、10進法では表記不能だ。
このようにべき乗を重ねていくことで、簡単に巨大な数を表記できるのだ。
しかし実はこのべき乗は、巨大数の世界のほんの入り口にすぎない。
テトレーション
このべき乗の上にはテトレーションという表記方法が存在する。
これはべき乗をまとめて表記する方法で、矢印2本を使って表記する。
例えばべき乗の
3↑3↑3↑3
をテトレーション表記にすると
3↑↑4
と書くことができる。
3↑↑100
と書くと、これは3を100階建てのべき乗にした数になる。
3↑↑3↑↑3
上記のようにテトレーションもべき乗と同じく、重ねて表記することができる。
これがどれだけ大きな数なのか、実際に計算してみよう。
3↑↑3↑↑3
=3↑↑3↑27
=3↑↑7625597484987
=アッーーー
もはや10進法どころか、べき乗で表記するのも困難なほどの巨大数になってしまった。
矢印表記
さらにテトレーションをまとめて表記するペンテーションというものがある。
3↑↑3↑↑3↑↑3↑↑3
という5階建てのテトレーションであれば、矢印3本を使って
3↑↑↑5
と表記できる。
ここまでくると人間がイメージできる数字ではない。
「無量大数の無量大数乗を無量大数回繰り返した数」みたいな一般的な表現で表すことは不可能だ。
さらにそのペンテーションをまとめたヘキセーションという表記方法もある(矢印4本)
3↑↑↑↑3
以下、矢印を増やしていくだけで、さらに強力な表記方法を作り出すことができる。
このあたりの表記方法を矢印表記と言う。
矢印が1本増えるごとに、1つ前のものが無に等しく思えるぐらいの凄まじいインフレが起きる。
べき乗: 3↑3 = 27
テトレーション: 3↑↑3 = 3↑27 = 7625597484987
ペンテーション: 3↑↑↑3 = 3↑↑7625597484987 = うわあああ!
テトレーションからすると、べき乗で示すような数は塵も同然だ。
同じく矢印100本からすると、矢印99本は塵も同然。
あとは矢印を増やしまくるだけで、いくらでも大きな数を作ることができる...わけでもない。
矢印表記にも限界はあるのだ。
ギネスにのった巨大数
ここで有名な巨大数であるグラハム数を紹介する。
数学上の意味のある最大の数と言われており、ギネスブックにも載っている。
グラハム数は
G1 = 3↑↑↑↑3
というヘキセーションからスタートする。
これだけでも凄まじい巨大数だが、まだまだグラハム数には到達しない。
次に
G2 = 3↑↑・・・(G1本の↑)・・・・・↑↑3
とする。
これがどういう数かというと、3と3の間に、3↑↑↑↑3本の矢印が並んだ数になる。
ついに矢印の数を矢印表記で示すようになった。
途方もないインフレだ。
しかしグラハム数にたどり着くためには、この処理を63回繰り返す必要がある。
G3 = 3↑↑・・・(G2本の↑)・・・・・↑↑3
G4 = 3↑↑・・・・(G3本の↑)・・・・・↑↑3
・
・
・
・
G64 = グラハム数
このようにグラハム数を出すことができた。
しかし矢印表記では無理があることが分かっていただけたと思う。
というわけで次の段階に進む。
チェーン表記
矢印表記を拡張させ、さらに別次元のインフレで巨大数を導き出す方法がある。
それがチェーン表記だ。
チェーン表記を使うことで、矢印表記では表現できないような巨大数を導くことができる。
チェーン表記では→という記号を使う。
チェーン表記の定義には、いくつかの場合分けが使われている。
1つずつ解説していく。
■条件1
a → b → c = a・・(c本の↑)・・b
ここまでは矢印表記と同じぐらいの強さ。
■条件2
最後の数が1のときは取り除くことができる
a→・・・→z→1 = a→・・・→z
3→3→1
=3→3
=3↑3
=27
■条件3
途中に1があった場合、そこから先を全て取り除くことができる。
a→・・・→b→1→・・・z
=a→・・・→b
どれだけ長いチェーンだろうと途中に1があればバッサリと切り落とすことができるので、計算がとても簡単になる。
■条件4
どこにも1が入ってない場合、以下の計算を行う。
a→b→・・・→x→y→z
=a→b・・・→x→(a→b→・・・→x→(y-1)→z)→(z-1)
うわあ...ゴチャゴチャになってきた...
けどよく見ると簡単。
最後の1つ前の数yと、最後の数zだけを変形させている。
yの部分が(a→b→・・・→x→(y-1)→z)になっている。
これは計算前の列を代入して、yから1を引いたものが入っている。
そして最後のzがz-1になっている。
これ何をやっているかというと、チェーンの数を減らしていっているのだ。
この計算を続けると、チェーン中にいつかは1が出てくるので、条件2、3により切り落とすことができる。
最終的に条件1の形、つまり矢印表記の形にもっていくことができる。
a→b→・・・→x→y→z
=a→b・・・→x→(a→b→・・・→x→(y-1)→z)→(z-1)
・
・
・
・
=a・・・・(とてつもない数の↑)・・・b
一見複雑そうに見えるけど、実際に数字を当てはめて計算してみると理解しやすい。
実際に計算してみよう
試しに
3→3→3→2
を計算してみる。
3→3→3→2
まずは条件4で式を変形させる。
=3→3→(3→3→2→2)→1
()の中にも条件4を適用。
=3→3→(3→3→(3→3→1→2)→1)→1
条件2により、最後の1は切り落とせるので
=3→3→(3→3→(3→3→1→2))
条件3により、1以降は切り落とせるので
=3→3→(3→3→(3→3))
3→3は3↑3のこと。つまり27。
=3→3→(3→3→27)
あとは条件1を当てはめるだけ。
まずは()の中から。
=3→3→(3・・・(27本の↑)・・・3)
そして全体。
=3・・・((3・・(27本の↑)・・3)本の↑)・・・3
これにて完了!
つまり
3→3→3→2
とは
3と3の間に矢印が、(3・・・(27本の↑)・・・3)本だけ並んだ数になる。
グラハム数をチェーン表記で示してみる
グラハム数は矢印表記では無理があったけど、チェーン表記なら下記の間に収まる。
3→3→64→2 < グラハム数 < 3→3→65→2
グラハム数レベルの巨大数ならこんなに簡単に表記できるのだ。
チェーン表記の破壊力の一端を理解していただけただろうか。
そして、これはまだ序盤に過ぎない。
チェーン表記の凄まじさ
これまではあえて最後の数を2に抑えてきた。
3→3→3→2
この最後の数を3に変えるだけで、全くレベルの違う巨大数になるのだ。(チェーン表記では、一番最後の数が圧倒的に大きな力を持っている)
3→3→3→3
これがどのぐらい大きな数なのか解説するのは難しい。
矢印表記では矢印が一本増えるごとに凄まじいインフレが起きたが、それのチェーン表記版だと思ってもらいたい。
もはや「グラハム数?何それ?0とどう違うの?」ってレベルになる。
さらにこの数を4にすると...
3→3→3→4
これまたバグ級の巨大数になってしまう。
もはや矢印表記など役立たずだ。
さらにチェーンの数も増やしていける。
■5つ組チェーン
3→3→3→3→3
■6つ組チェーン
3→3→3→3→3→3
■n組チェーン
3→3→・・・・・・・・・・・・→3
5つ組チェーンは、もはや4つ組チェーンとは別次元の巨大数になる...
試しに5つ組チェーンの中でかなり易しめのものを計算して、4つ組チェーンに変換してみよう。
3→2→2→2→2
=3→2→2→(3→2→2→1→2)→1
=3→2→2→(3→2→2)
=3→2→2→27
アッ...
この時点でもうヤバい数だと気が付く。
4つ組の最後の数が27って...
3でもヤバかったのに...
今度は2番目と3番目の数を3に変えて計算してみる。
3→3→3→2→2
=3→3→3→(3→3→3→1→2)→1
=3→3→3→(3→3→3)
=3→3→3→(3↑↑↑3)
なんと4つ目の数が矢印表記レベルになった...
次は4番目の数を3に変えて計算してみると、
3→3→3→3→2
=3→3→3→(3→3→3→2→2)→1
=3→3→3→(3→3→3→(3→3→3→1→2)→1)
=3→3→3→(3→3→3→(3→3→3))
=3→3→3→(3→3→3→(3↑↑↑3))
ついに4つ目の数がチェーン表記を使わないと書けないレベルに。
さらに最後の5つ目の数を3にすると...
これはおそらく表記が困難なので止めておこう。(さっきも書いたけど、チェーン表記では一番最後の数が圧倒的に大きな力を持っている)
まあつまり、5つ組チェーンを使うと、4つ組チェーンの最後の数を爆発的に大きくさせることになるわけだ。
同じように、6つ組チェーンの場合は5つ目の数を爆発させ、7つ組チェーンは6番目の数を爆発させる。
チェーン表記では長さが最も重要!
今までの話から何となく分かる通り、チェーン表記で巨大数を作るときに重要な要素は以下のようにレベル分けできる。
チェーンの長さ > 一番最後の数 > 最後の1つ前の数 > その他の数
つまり左側の数字をバカでかくするより、チェーンの長さを増やしたり、右側の数を増やすほうが、効率的に巨大数を導けるということだ。
意外かもしれないが、
グラハム数→グラハム数→グラハム数→グラハム数
よりも、チェーンを1つ増やしただけの
3→3→3→3→3
のほうが遥かに大きい。
チェーンを長くする効果とはそれほど強力なのだ。
まとめ
というわけで巨大数について、ぼくの分かる範囲でさっくり解説してきた。
チェーン表記よりも強力な手法に、多変数アッカーマンとかカントール標準形というのがあるんだけど、ぼくもまだ理解不足なので説明できない。
有名な巨大数に「ふぃっしゅ数」というのがあり、現在バージョン7まで作られているのだが、バージョン1の時点で既にチェーンでは表記不能みたいだ。
さらに上には「計算不可能」とかいう、概念レベルの巨大数も存在する。(ラヨ数やサスクワッチなど)
まるで「ぼくのかんがえたさいきょうのかず」みたいだが、巨大数マニア達がこれを真剣にやるとえげつないことになるのだ。
興味のある方は自分で調べてみてほしい。
たぶん何の役にも立たないだろうけど、好奇心はそそられると思う。